丸山の講義補助

Contents for Higher Education for Sustainable Development

#深いESD のフレームワーク

本研究「大学における「深いESD」プログラムの開発と評価に関する実証的研究」では、次のような枠組みとデザインで研究を進めます。

ESDからSustainable Educationへ

1. ESD (Education for Sustainable Development)

本の学校では「国連ESDの10年」(2005-2014)によって文科省初中局とユネスコ国内委員会が連名で地方教委にレターを出したこともあり、ユネスコスクール・ネットワーク(ASPnet)登録数が世界一となり、ESD実践も盛んになりました。ESDに含まれる「Development」は「開発」と訳されまずが、当初はMEXTなどで「発展」の方が良いという指摘もあり「持続発展教育」という用語も生まれました。内発的発展論」に持続可能性を見出す私は、「発展」推しです。

英語の議論では、そもそも「Development」には経済開発の志向性が強いという批判もあり、Education for Sustainabilityの方が妥当だという主張もあります。ただし、UNDPが毎年レポートするように「Human Development」は複合指標で示されることや、社会開発はインフラ整備だけではないことから、ESDでの「development」概念は広く捉えられています。「持続可能な開発のための教育」という定訳を書類や論文で私も使いますが、口頭で説明する時には「持続可能な開発または持続可能な社会構築に向けた教育」と表現します。

2. Education for Sustainability

「Education for Sustainability」は欧州、豪州、米州の研究者および実践家で使われ続けており、環境教育との関係も深いです。当然、「持続可能性」について議論する必要があります。何が持続可能性なのか?という議論は19世紀末からなされており、1980年代に国際的な「SD」定義が共有された後も議論が盛んに続いています。この10年ほどではOECDもウェルビーイングから持続可能性を提示しています。

How Was Life?: Global Well-being since 1820
 

こちらのエントリーでも示した(主にChap.16Ch 13とおり、グリーン経済が持続可能性と単純に理解されたりする現実も認めつつ、21世紀においては「sustainable citizenship」が重要とされています。今や、持続可能性について学ぶ方略を作るタイミングではなく、持続可能性に向けた教育を、さらには教育こそが持続可能性を意味する(あるいは変化・変容の担い手そのものを意味する)と存在論を含めた学習論へとつながります。これが次に示す「Sustainable Education」です。特定の開発のために教育がツールとして機能するという捉え方ではなく、私が使う「持続可能な社会構築」や「Sustainable Futures」も同様に目指しています。

3. Sustainable Education

学習者個人は生涯学習(学校教育、家庭教育、社会教育、ノンフォーマル教育)を通して、John Deweyが指摘したように、自らの存在を高めて自己実現して)いきます。Peter Jarvisも存在のための学習を整理しており(UNESCOの"Learning to become"も参照)、「ESDを卒業する・止める」ことはありえないわけです。

本研究では、このESDを「深いESD (Deep ESD)」として捉えています。「深いESD」は『SDGs時代の教育(pp.42-44)』で永田佳之先生がUNESCO報告書"Wals, Arjen E.J. (2012). Shaping the education of tomorrow: 2012 full length report on the UN Decade of Education for Sustainable Development"(p.71)を参考に使い始めた用語で、協働研究のためご本人の許可を得て本研究では使っています(研究分担者で参画いただいています)

変容学習 (Transformative Learning)

その「深いESD」のデザインと実践で大切なのが、変容学習。UNESCOの学習の4本柱(Learning to know, to do, to live together, and to be)に、ESDによって5本目(learning to transform oneself and society)が加わるとされるほど大きな意味を持ちます。

変容学習は、成人教育の分野で盛んに議論されてきました。グローバル化と情報化・知識基盤化によって生涯学習が学校内外の教育とシームレスに扱われ、子どもの発達段階にもよりますが、学習は成長とつながり扱われます。カッコよく言うと「生きることは学ぶこと」と。

「学ぶこと=自分を成長させること」 との議論は数多くあります。SDGs達成の中心には学習が位置づけられると北米比較国際教育学会大会で教えてもらったのが、Wagner教授でした。

SDGsには17つの目標が掲げられており、それらすべての達成には学習が関係しています。変容とは、個人の変容だけではなく、社会を変容させること、簡単にいうと私たちの「当たり前」を問い直すことになります。

大学という学習環境の変容

さて、本研究はアクション・リサーチとして実践の場を大学教育にセットしています。大学はフォーマルな教育機関ではありますが、私が長年行っているノンフォーマル教育研究からも示すことができるように、ノンフォーマル・インフォーマルな学習が展開される空間です。ここでも示したように、大学も変容が求められているといえます。

大学の構内だけ変容すれば良いという捉え方ではありません。大学の社会的存在意義も重視するタイミングだと言えるでしょう。社会の変化へ対応するといった受け身ではなく、社会をより良いもの(持続可能な社会)へ変えるため主導していく生産を行うのが大学なのです。そこで必要になるが、上位システムを変えるには、副次システムを変化させることで、変化は変化を及ぼすという分析と変化を生み出す「レバレッジ(ツボ)」の判別となります。

 

システム思考

システム思考が良い点だと考えられるのは、「同じシステムだと、誰がやっても似たような結果になる」という一見すると人間開発を否定するような捉え方をしている点です。この意味は、誰もが同じように能力を伸ばす(スキル獲得する)という画一的な教育を、すべての社会的な・個人的な「病」を治す「万能薬」と見なさない、です。同時に、関係者個人の落ち度だけを追求するのではなく、システム(デザイン)に問題があるのではないかという分析をする点が良い点です。

本研究では開発デザインの段階と分析の段階において、直接的因果関係を扱うロジックモデルに加えて循環的因果関係システム思考の手法を用います。システム思考では、i)関連性が低いと思われる要素の影響を扱う、ii)強化する・弱める(バランス)の関係性を捉える、iii)発生する時差を考慮する、そしてiv)限られた資源下で変化を生じさせる「ツボ」を探します。

システム思考に対して、概念的すぎる、保守的なバランス(変化させない意図)を認めるなどの批判もあります。特に、人によって認識(「メンタルモデル」)が異なるため、正答が不明瞭などは弱点です。そのため、ESD実践においては、当事者・関係者がプロセス(加工と過程)に参加することが重要になります。特に、評価においては、それが顕著です。

 

評価論

ESDの評価は、学習成果(learning outcomes)の議論だけに焦点化しても曖昧であるという議論が続いています。SDGsの第4目標にある 4.7項目は、ホットな議論対象です。

しかし、開発学でいうエンパワメントや参画、教育学でいう能力開発という点からみても、ノンフォーマル教育の実践などにおける蓄積が十分に役立ちそうです。既に参加型評価がプロセス全体を価値を創造する評価活動として見なす手法があります。本研究では、米原あき先生と一緒に研究しています。

 

 

大学での実践

以上は、フレームワークの紹介でしたが、具体的に何をやるんだ?と感じられた方のために、最後に少しだけ:3つの実践を行っています。

  1. 浸透型(分野横断)プログラム開発

    これは、上智大学の「Sophia Program for Sustainable Futures」で、私もこんな恥さらしをしています(クリスタルプロンプターがあれば、いや事前にもっと練習すればこんなに噛まなかっただろうに)

  2. 実地型(スタディツアー)
    見原礼子先生 がアジアと欧州に展開されているフィールドスタディや丸山が行う「持続可能性スタディツアー」などが本研究に含まれます。見原先生も丸山も、欧州ムスリム移民の抱える価値観に対する包摂性と固有性を扱っており、教育がどう可能性を作るかを追いかけてきました。

    www.hss.nagasaki-u.ac.jp

  3. 包摂機関型(学習環境とキャンパス改善)
    こちらは、本研究期間が始まってから扱う内容です。例えば、上智大学の場合、SDGsキャンパスも含まれますし、学生のサークル活動(Green Sophia)も含みます。

長いエントリーを最後までご覧いただきありがとうございました。「深いESD」研究は、2020年4月から始まったばかりです。COVID-19感染拡大により実際には6月からのスタートですが、人類史と自然環境の観点からも持続可能性に直結する課題として、本研究でも扱っていく予定です。

皆様からのご指導・ご助言をよろしくお願い申し上げます。