EFA から SDGs へ (国際教育開発論2)
秋学期始まりました!教材3『Learning First(学習ファースト・学習ありき)』 は、次リンクからダウンロード可能です。まずは、サマリー、セクション1、2を読みましょう。
- サマリーでは、国際目標の存在とその影響、学習の意義が変わってきてる、5つも研究領域がある、学習についての研究ネタが示されています。
- セクション1:国際目標による改善動向、就学機会・基礎識字・現実的技能の保障が。
- セクション2:学習の3要素(個人のアクティブな参画、社会的参加、意味のある関与)が示され、3つの事例の後、フォーマル・ノンフォーマルの2要素と構造化・非構造化の2要素をかけた4パターンの紹介(←これ大事)。学校内外での学習、「平均的」子どもを対象とする限界、二元論の危うさ。
簡単な英語ですが、背景が分からないとツライかもしれません(大学院生は『Learning as Development』を)。全体像を把握するためには、教科書1(第5章)と教科書2(第1、4章)を読んでみましょう。現在、教科書らが売り切れ状況なので、一部を引用しながら示します。
発展途上国における近代学校教育制度の導入
いわゆる発展途上国(以下、途上国)の多くでは欧州列強による植民地化を契機として近代学校教育制度が導入された。19世紀、宗主国による統治のため(植民地を支配し続けるため)に公教育制度が整備された。その制度で教育を受けた現地の一部の人は、現地を支配するエリートとして宗主国の大学へと留学させられた。留学を終えると、宗主国の意向に従って現地の大衆を支配した。その一方で、農村地域などに暮らす現地の人にとっては学校とは無縁で、古くから伝わる口承と体験を通じた文化伝達の仕組みを通じて生活の知恵を身につけてきた。
多くの植民地は1960年代に独立し、宗主国の文化から脱却して、自分たちの民族文化を取り戻すことを試みた途上国指導者もいた。だが、国家建設プロセスで社会制度を機能させ経済を発展させるためには、教育の近代化が必須だと認識した。安定した国家を作るには、読み書き・計算を国民に獲得させる必要が見えてきたのであった。
国際教育開発(国際教育協力)とは
それまで植民支配をしていた現在の先進国は、国際機関や自らの政府あるいはNGOなどを通して、途上国の発展に協力するようになった。こうした教育拡充の取り組みを「国際教育開発」と呼ぶ。ここでは、初等教育から高等教育までを体系化した学校教育制度の構築、学校建設をはじめとするインフラ整備、カリキュラムや教科書の開発、教員養成、教育行政システム整備など、国際援助としてすべてが対象となる。国際機関が途上国の教育開発を計画化、具体的な目標を立て、途上国政府も先進国(ドナー国)や国際機関からのそうしたヒト・モノ・カネの投入を歓迎した。(丸山・太田 2013:94-96)
EFA 国際協調のはじまり
教育開発の歴史は実は短い。1960年、パキスタン・カラチでUNESCO主導の地域国際会議が開かれ、1980年までに初等教育の完全普及のため「カラチ・プラン」が採択された。1961年、エチオピア・アジスアベバで、1962年にはチリ・サンディエゴで、それぞれ同様の会議が開かれた。だが、1980年代にはエネルギー危機の影響で途上国の累積責務が増大、IMFと世界銀行から構造調整を求められ、途上国では教育や保健などの財政支出が削減された。のちに「失われた10年」と呼ばれる。
1990年、タイ・ジョムティエンで、UNESCO, UNICEF, World Bank, UNDP共催で「万人のための教育(Education for All: EFA)」 が採択された。ここでは2000年までの初等教育完全普及、女性の識字教育の拡充などを宣言した。2000年のセネガル・ダカール会議を経て、2015年まで毎年EFAの達成状況をUNESCOはレポートしてきた。
SDGs第4目標へと継承
EFAは今日に至るまで途上国における権利・エンパワメント・開発を核とする、より公正な社会を構築するための基盤を提供する役割を担ってきた。2015年にSDGsがNY国連総会で採択され、教育はSDGs第4目標として設置された。EFAの延長戦は第4目標のうち、4.1(無償かつ公正で質の高い初等・中等教育の普遍化)、4.2(質の高い就学前教育への平等なアクセス確保)、4.5(教育におけるジェンダー格差の解消、弱者の教育機会のアクセス保証)、4.6(成人識字の向上)として組み込まれている。これらはダカール枠組みを継続したものといえる。だが、ダカールとは異なり、教育アクセスの観点に加え、より教育の質向上を重視している。
SDG4ではEFAよりさらに踏み込んだ目標が掲げられている(興津 2019:81-82):
今の大学と同様、アクセス保証(教室に来て座っていればいい)から、教育の質(広い可能性、学習できた内容、学習の目的)が重視されるようになっていることがわかります。
(大学院生向け:主に北米と日本の国際教育開発研究の動向および教育へのグローバル化の影響については、丸山(2019:330-332)も参照されたい。)