丸山の講義補助

Contents for Higher Education for Sustainable Development

『SDGs時代の教育』完成(私はリテラシー・ノンフォーマル教育を執筆)

5月には書店で入手できると思います。著者が多かったので、編者の方、本当にお疲れ様でした!執筆者も章によっては共著になり、ご調整が大変だったと想像します。

SDGs時代の教育:すべての人に質の高い学びの機会を
SDGs時代の教育:すべての人に質の高い学びの機会を
  • 作者: 北村友人,佐藤真久,佐藤学,望月要子,永田佳之,諸橋淳,小林亮,興津妙子,小玉亮子,小山祥子,大村浩志,芦田明美,徳永智子,?橋史子,浅井幸子,有馬梨絵,川口純,丸山英樹,松田弥花,松葉口玲子,岩本渉,勝野正章,李正連,西村幹子,草彅佳奈子
  • 出版社/メーカー: 学文社
  • 発売日: 2019/05/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 以下、簡単に紹介を:

  • 第1章「SDGs時代における教育のあり方」は、高校生と大学1年生向けに全体の流れが示されており、とても重要なチャプターになっています。上智大学FGSで国際教育協力あるいは国際教育開発を扱う学生なら、ここの内容は最低限の知識と思ってください。21世紀のスキルに関心がある人も、本章(p.15)や丸山(2009)でも示した「人間でしかできないスキル(Levy & Murnane)」について、就活・業界の分析において一つの示唆だと捉えてください。
  • 第2章「持続可能な開発のための教育(ESD)」は、最初に高校生向けに動向が整理されてます。第2節からが、本書で読むべき内容です。「浅いESD」と「深いESD」が少しだけ示されており、日本全体でみればとても小さな動きなのですが、ESD業界にいるとまるで世の中すべてESDの素晴らしさを語っているかのような錯覚に陥るかもしれません。「そのESDとやらは、何なのか?」を深く捉えると、特別なことをやるわけではなく、教育として大切なことを追いかけているのだと気づくでしょうし、ESDという看板を掲げてなくても、ESDそのものであることも見えるでしょう。
  • 第3章については、私からは特にありませんが、アイデンティティに関する議論はアマルティア・セン (2011)『アイデンティティと暴力: 運命は幻想である』あわせて読みたいところです。私個人の研究としては「EUシティズンシップ」とムスリムアイデンティティについてなど。
  • 第4章「基礎教育/学習成果」は、SDG4に迫るエキサイティングなチャプターです。これだけで1冊の本とすべきなのですが、とにかくページ数の関係で、著者は泣く泣く削った情報が大量にあったことは間違いありません。従来の国際教育協力からSDGs時代の国際教育協力へのシフトとジレンマ、また世界共通の課題が描かれて深堀りできる内容ばかりです。あぁ、もったいない!(丸山が2009年から本格的にお付き合いしてるUNESCO「バルト海」プロジェクトについても紹介いただいています)
  • 第5章、6章はご関心のある方、ご確認ください。第7章は、私も勉強中です。
  • 第8章〜11章は「人類の成長基盤II:教育の平等と公正」とまとめられています。マイノリティ、ジェンダー、インクルーシブ教育、リテラシーとノンフォーマル教育と、どれも重要なテーマで、関心に応じて確認してください。
  • 第11章「リテラシーとノンフォーマル教育」は、丸山が執筆したものなので、簡単に紹介しておきます:
  1. リテラシー(literacy、当初は識字と和訳されていた)は、ペルセポリス宣言(UNESCO 1975)で「リテラシーとは、単に読み書き算スキルを学ぶ過程ではなく、人間の解放と完全な開発に寄与するもの(p.2)」と明示されています。同宣言は、リテラシーは人々が暮らす社会の矛盾に対する批判的意識を獲得できる条件を作り出すとしす。世界に働きかけ、世界を変容させ、真正の人間開発の目的を定めることを可能とするプロジェクト形成に影響し、参加に向けて人々を刺激します。そのため、スキルと対人関係を習得する道を示し、それ自体が目標で終わらず、そして普遍的な人権であると述べます。。。
  2. 識字率などの基礎情報を高校生向けに示した後、リテラシーの概念が拡張している現在の話を扱っています。JICAのプロジェクトでも「インパクト」と呼ばれる副次的成果に着目できる点を取り上げています。
  3. ノンフォーマル教育とは、学校制度外で組織的に実施される、目的・意図を有する多様な形態をもつ教育活動・相互作用です。近代学校教育制度にもとづくフォーマル教育と、偶発的学習や家庭教育など組織化されていない教育を意味するインフォーマル学習(教育)との間に位置づく。
  4. ノンフォーマル教育の「不幸」は、学校を中心とした教育の捉え方をする場面では、設備や教師の質が劣る・無いなど「二流の教育」という扱いを受け続けていること。しかし(学校)教育が中心でない場面では、例えばコミュニティ開発、収入向上、保健衛生、ジェンダー、平和構築などのプロジェクトで必要とされる。なぜならば、人が変わるのは教育・学習であるため、その状況・文脈に応じた形の教育あるいは変化できる教育、つまりノンフォーマル教育が必要となる。
  5. 学校で得た知識だけで一生過ごせるわけでもないSDGs時代においては、学び続けること(生涯学習)が必須となる。各自が自分にとって必要なことを柔軟に・マイペースで学ぶ・教育機会を確保することは、ノンフォーマル教育と呼ぶことができる。
  • 第12〜終章は、私もちょっと疲れてしまい、たぶん読者の方もお疲れでしょう。それぞれご関心で。個人的には、第17章「効果的な学習環境」と第18章「地域社会における社会的学習」は必ず読んでもらいたいです。