丸山の講義補助

Contents for Higher Education for Sustainable Development

#セレンディピティ 、教育でそれを高める?

「あの人は、運がいいよね」と思うことがありますか?スピリチュアル系の話では、よくあるんでしょうけど、「セレンディピティ」、つまり「偶然なにか素敵なことに遭遇したり、想定外のことを見つけたり、偶然を機会にして喜びごとをものにできる能力」について。

The Shorter Oxford English Dictionary: On Historical Principles 3rd. ed. (1964版, p.1847)では「偶然、幸せかつ予想外の発見を起こす精神的能力(The faculty of making happy and unexpected discoveries by accident.)」とのこと。

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OED (1964: 1847l) (c) Maruyama

この辞書、英語学科フロアにいた時期に「捨てるならいただきます」と貰い受けた。大学の「学部」は英語で「Faculty」と呼びますが、この辞書(p.667)によると「I. 'The power of doing anything' 1. An ability of aptitude, whether natural or acquired, for any special kind of action; formerly also, ability in general. Occas. limited to a natural aptitude. ...」などと、ゾクゾクと興奮しそうな単語です。紙の辞書をひくなんて、10年ぶりかしら?

なぜ、私がこのトピックを取り上げたのか?これも偶然なのですが、ある学生が第一希望の留学先ではなく、別のところへ留学が決まった。最初は意識してなかったけど、調べてみると先方に良さそうな指導教員がおられて、私が「連絡してみたら?」と助言し、その学生もダメ元でメールしてみた。すると、とても丁寧なお返事が来て、私も「共同研究の可能性を探りたい」なんてメールをしてしまい、何かトントン拍子でつながりが。まったく想定外だけど、その学生は留学する前からその先生と連絡が密になり、私も専門の研究に深みが出そうな予感がします。

昨年度は、「もっともっと勉強したい」という忙しい社会人学生と色々な話をすることができました。無事に卒業できた、その学生は今も大活躍しています。誰にだってツライ経験、過去がありますが、その学生も出逢いを大切にし、自分を信じて自分ができることを続けてました。その学生との出逢いも偶然だったのですが、当時の私にとって必然性があったように思い出します。

学校教育では「この時間には、これをここまでやる」と、あらかじめカリキュラムや授業計画が設定されていることが多いです。ですが、私が研究するノンフォーマル教育なんかでは、その場や状況に応じて、かなり柔軟性・流動性が高い教育活動です。最近でこそアクティブラーニングとか言われてますが、ノンフォーマル教育では、学習者の関心に応じて教育内容を変える(共通基盤は「訓練」的に獲得する必要は認める)。そうした経験から、私自身は、セレンディピティは教育で獲得できると思います。特に、観察力・洞察力・感受性・準備ができてる気持ち(rediness)・繊細さは、それらを重視する教育で養える。

上記画像の辞書で示されている『セレンディップの三人の王子たち』は、今でいうスリランカ民主社会主義共和国の王子様たちが旅の道中、意外性や偶然の中から、自らの洞察力を使って特別な意味を見出していきます。私も写真の中にいますが、聖心女子大学の永田佳之先生が企画してくださったスリランカへのスタディツアーに行く前に、この本を読みました。

セレンディップの三人の王子たち―ペルシアのおとぎ話 (偕成社文庫)

セレンディップの三人の王子たち―ペルシアのおとぎ話 (偕成社文庫)

 

ただし、他人から与えられる形での教育では、セレンディピティはあまり高まらないのかなとも思います。というのは、その本人にとっての想定や偶然は、他人のものとは異なるため、本人が偶然などから掘り出すしかないからです。例えば、古本屋や古着屋に行って掘り出し物を見つけるのを、他人まかせにできますか?あるいは、他人が「これオススメだと思って、買ってきたよ」と、自分が偶然見つけたものとでは、どちらが嬉しいですか?他人まかせでも良いという人が、ここまで読み続けたとは思えないのですが、その偶然・可能性も否定せずに、ラッキーな人の要素を調査した本を紹介します。

それは、『The Luck Factor: the Scientific Study of the Lucky Mind』。東北大学で集中講義をさせていただいた後、そのまま新幹線に乗って青函トンネルを抜けて函館で週末を過ごした年がありました。その車内で気分転換に一気に目を通し、面白かった。

The Luck Factor: The Scientific Study of the Lucky Mind

The Luck Factor: The Scientific Study of the Lucky Mind

 

ネタバレですが、幸運な人がやってる、4つの原則とは:

  1. 機会の拡大:強い幸運ネットワークを作る、リラックスできた状態でチャンスに気づく、新しい経験にオープン
  2. 幸運の直感を聴く:内なる声に耳を澄ます、直感を高める
  3. 幸運を期待する:将来も幸運と考える、チャンスが小さくても目標達成に向かう、他人との交流が良いものになると考える
  4. 幸運に変える:不幸の良い面を、不幸は長い目で良いことと、不幸にとらわれないこと、将来に不運が続かないよう工夫

↓ 日本語版が出版されているのを知らなかった。和訳が正しいか、各自ご確認ください。

運のいい人の法則 (角川文庫)

運のいい人の法則 (角川文庫)

 

研究者には同意してもらえると想像できるのは、ひらめきが発生する時とは、考えた末に疲れた時、風呂・シャワー・歩いてる・トイレなどメモ取りにくい時、「あれ、なんだろう、この感覚・・・あぁ!」という時、などだと思います。私の場合、それらに加えて、他人と喋ってるとストンと降りてくる・落ちてくる感じです。学生との真面目な会話は、今の私にとってとても貴重な機会です。ただ、予定調和じゃないんです。

ちなみに、初代ガンダムのシャアが「私は運がいい!」と発する場面、私自身は似たような気持ちになることに何度も何度も遭遇してて、そのたびに↓ 第15巻のp.23右上の絵が浮かんでます。