丸山の講義補助

Contents for Higher Education for Sustainable Development

私教育と公教育:価値形成と国民形成から、天皇の教育と体現

教育を学校教育だけと捉えている人がいるとしたら、今こうしてネット上の情報にアクセスして何かを学んでいることに、もっと気づいた方が良いでしょう。私たちは、ゆりかごから墓場まで、つまり生涯にわたり学び続けていますから。少し、そもそもの話をここで。

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「生涯教育(Éducation permanente)」という言葉が使われるようになったのは、ユネスコ第3回成人教育推進国際委員会(1965)にラングラン(Lengrand, P.)がワーキングペーパー(PDF)を提出したことによる。生涯教育は、生涯にわたる時間軸と教育の場・空間を示す空間軸を統合したものを指した。

日本教育社会学会(2018:501)によると、その統合された時空は学習者の時期によって主な空間は異なるものの(通学するまでは家庭で、学童は学校で、卒業後は社会という空間で主に学ぶ)、日本では1981年中央教育審議会答申「生涯教育について」において生涯学習と生涯教育の考え方を次のように説明した:

  • 生涯学習:自己に適した手段・方法を自ら選んで、各人が自発的意思に基づいて生涯を通じて行うもの
  • 生涯教育生涯学習のために、自ら学習する意欲と能力を養い、教育機能を相互の関連性を考慮しつつ総合的に整備・充実しようとするもの

さらに、1987年の臨時教育審議会最終答申「教育改革に関する答申」は、「学校教育中心の考え方を改め、生涯学習体型への移行を主軸とする教育体系の総合的再編成」を提案し、以後、生涯学習が主に使われるようになった。

教育社会学事典

教育社会学事典

 

国際的にはJarvis (2004:122)は「生涯学習とは、最近までは生涯教育と同義で扱われる傾向があったが、概念的な違いが明確に存在する。1.学習プロセスは、人生期間を通して生じる。2.フォーマルな教育・訓練機関で多様に発生する学習と、家庭や職場あるいは広範囲なコミュニティでインフォーマルに発生する学習を含む。(lifelong learning: Until recently, there has been a tendency to treat this term as being synonymous with lifelong education. However, there are distinct conceptual differences. 1. The process of learning which occurs throughout the life span. 2. The learning that occurs variously in formal institutions or education and training, and informally, at home, at work or in the wider community.)」とした。

私たちは、ある社会集団に所属し、その集団を介して一人のメンバーと認められる。この一連のプロセスでは、その社会が必要とする人間を育成することで、存続・維持させる機能が見られることになる。これを、デュルケム(Durkeim, É)は「社会化(socialization)」と呼んだ。この「社会化」が特定の集団で系統立てて・組織化されて展開されると、教育と呼ばれる活動になる。同時に、その集団を代表する人物を媒介に、その集団のメンバーは人間(パーソナリティ)を形成していく。学習社会(learning society)については、後日。

人間形成に着目したパーソンズ(Parsons)らは、社会化は主に家庭と学校によってなされ、それらにおいて子どもの人格が分化・発達するとした。家庭で子どもは人格を分化させ、後の人間形成の基礎をつくり、学校においてその過程をさらに進める。学校では教師が社会化を促すことになり、子どもは知識だけでなく、道徳的態度も獲得する。

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以上が、やや古典的な教育の話です。

さて、平和を追求されてきた、日本国民の象徴としての上皇明仁陛下は、恐らくご自身の戦争体験と米国人家庭教師エリザベス・グレイ・ヴァイニング氏からの影響を受けて、人間形成の機会があった想像されます。

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私自身も天皇陛下(当時)とお話させていただく機会を得て、「このような方が日本人を象徴して、世界で認知されるなら、日本人を本当に誇ることができる」と圧倒的なオーラ(笑)にすっかりやられてしまいました。中学校や高校でテスト前の授業中でもお構いなしに天皇制反対を訴える社会科教師に、反抗期ということもあり、ただ反発していたような経験を経て、特に何とも思わなくなった私でしたから。 

ノンフォーマル教育は、公的な学校システムの外でも教育意図を持った組織化された教育活動を指します。家庭内で例えば母親から受ける教育はインフォーマル教育とされ、家庭教師の場合はノンフォーマル教育となります。戦後直後に、人権、自由、平和、民主主義といった価値体系を頭で理解する以上に、家庭教師が伝える語りや態度から「隠れたカリキュラム(hidden curriculum)」として習得していたことは否定できないでしょう。私も機会があれば『皇太子の窓』 を読んで、確認してみたいと思います。ちなみに、途上国の教育開発やノンフォーマル教育では隠されたカリキュラムはよく扱われる内容なのですが、日本国内ではジェンダー分野でよく見かけます。

皇太子の窓 (文春学藝ライブラリー)

皇太子の窓 (文春学藝ライブラリー)

 

最後に、学校教育によって戦中の日本人の価値体系は作られた、また戦後の学校教育で自由と民主主義が広まったと言えたとして、平成の時代においては天皇陛下(当時)の振る舞いは日本社会あるいは日本人に影響したと言えるでしょうか。もし、影響したと言えたならば、皇太子殿下(当時)だった彼が米国人家庭教師から受けたノンフォーマル教育の影響力の大きさは計り知れないと結論できるかも。 

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 教育そのものについては、こちらのエントリー

sophiamaru.hatenablog.com