丸山の講義補助

Contents for Higher Education for Sustainable Development

ESDとインクルーシブアプローチ (国際教育開発論2)

社会的包摂の3側面

前回は、教育アクセスから教育の質へ移行する話でした。EFAの時代、教育アクセスは最重要課題とされ、近代学校へ通学することが「教育」を実際には意味する場面もありました。SDGsが始まるとEFAの内容が拡張され、中等教育段階への拡がり、ジェンダー格差解消と包摂性の強調、獲得した能力の測定、持続可能な開発に向けた教育の促進が重視されるようになりました。

「国際教育開発論1」でも扱った社会的包摂には、3つの側面(収入や富の不平等、法的制度による差別、文化的・社会的規範による差別)があります。この3つのうち、教育が最も影響力を持つのは「文化的・社会的規範による差別」に対してだという話でした。覚えてますか?

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丸山は、持続可能な社会を「ムスリム移民の中でも弱者と捉えられている女性たちが、自ら社会参画していくことでエンパワーされ、他者もエンパワーする状態」の社会として、主にベルリンで10年ほど調査を行ったことがあります。今回の講義内容に合わせると、排他的でなく、包摂的なアプローチが社会の主流派に特に求められることが言えます。

(余談)丸山が調査したドイツはシリア難民の流入が見られる前でだったが、1960年代の人手不足の時に契約ベースで外国人労働者に来てもらい、そのうち出ていってもらうはずが、経済状況の変化と東西冷戦の終焉で状況が大きく変わり、定住を認めることになった。移民国家であることを2005年まで認めなかったドイツでは、ネイティブと移民の間で並行社会が成立してたとされるが、実際には分断が進んでいた。中でも、家族呼び寄せでドイツに来たムスリム女性(奥さんや生まれた娘)は、幾重にも課題を抱え、複数の価値体系の中でマージナルな存在にも追い込まれた。ベルリンの一部で移民女性たち自身が自分たちの文化に沿った茶話会から始まり、行政サポートも入り、NGOが事務局をして、つながっていったら、大きな学びのうねりが。。。(まるで映画のようです)

トランスナショナル移民のノンフォーマル教育――女性トルコ移民による内発的な社会参画

トランスナショナル移民のノンフォーマル教育――女性トルコ移民による内発的な社会参画

  • 作者: 丸山英樹
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2016/12/23
  • メディア: 単行本
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インクルーシブ・アプローチ

その包摂的(インクルーシブ)アプローチこそが、「誰ひとりも取り残さない」SDGsに大変重要な捉え方です。EFAでも、女性や非識字者を対象に、学校や学習機会を担保できるようにインクルーシブな環境が求められましたが、そのアプローチの多くは「対象(Object)」としての学習者(非識字者)に過ぎませんでした。「主体(Subject)」として扱われるようになるのは、ESDの登場を待つ必要がありました。8月上旬に東京で開催したWERAの基調講演者の一人G. Biesta先生は、教育の中心にsubjectとして学習者が存在することを語ってくれ、私もノンフォーマル教育からお話を伺い機会がありました

教えることの再発見:

教えることの再発見:

  • 作者: ガート・ビースタ,上野正道
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2018/08/31
  • メディア: 単行本
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また、女子・女性への教育は、持続可能な開発に強い影響を与えることも指摘されるようになりました。(例えば、人口爆発などの計算式においても、女性の教育が加味されたら全く爆発の規模は違ったなどという研究結果も出ています)

 

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ESDは社会変化・変容を生み出す人を育てる

ESDは、社会変化・変容を生み出す人(change agents)を育てる教育とされます。前回の講義で触れたように、何のための教育なのか?「持続可能な開発・社会」のため、それに向けた教育ということになります。使い古された表現では、学習者が主体的に学び、社会を変えていくわけです。Wagnerらの「学習」の定義が「a modification」で、UNESCO (1996)ドロール報告書「学習の4本柱」に、ESDは5本目の柱"learning to transform oneself and the society"が含まれることもあります。

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国際的には2005年から2014年まで、「国連持続可能な開発のための教育の10年(the United Nations Decade of Education for Sustainable Development: UNDESD)」が展開されました。教科書1第8章(2013年出版)では、まだUNDESDの最中だったため記されていませんが、教科書2第2章(2019年出版)にはUNDESDからSDGs 4.7へと受け継がれたことが記されています。特に、SDGsのすべての目標に対して、UNESCOがESDの視点から知識・理解、態度、行動の3側面における学習目標を設定した UNESCO 2017 Education for Sustainable Development Goals: learning objectives)ことは、注目すべきです。

教科書2『SDGs時代の教育』 第2章の最後には、「深いESD」が記されています。本講義の後半で展開されるグループワークでは、「learning to transform oneself & the society」を促す深いESDを企画してみてください。

SDGs時代の教育:すべての人に質の高い学びの機会を

SDGs時代の教育:すべての人に質の高い学びの機会を

  • 作者: 北村友人,佐藤真久,佐藤学,望月要子,永田佳之,諸橋淳,小林亮,興津妙子,小玉亮子,小山祥子,大村浩志,芦田明美,徳永智子,?橋史子,浅井幸子,有馬梨絵,川口純,丸山英樹,松田弥花,松葉口玲子,岩本渉,勝野正章,李正連,西村幹子,草彅佳奈子
  • 出版社/メーカー: 学文社
  • 発売日: 2019/05/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 (院生対象:SDGs 4.7の進捗と測定は今も課題です。しかし、測定の時代においてて、何が良い教育なのでしょうか?) 

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よい教育とはなにか: 倫理・政治・民主主義

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